内科疾患のお話し(エコーの所見用紙にはなんて書いてある?)
2022.06.27更新
【エコーの所見用紙にはなんて書いてある?】
今回はエコーの所見用紙の見方についてお話ししたいと思います。
少し前までは、エコーの所見用紙は他院の紹介状資料として患者様にお渡しするくらいでした。内容を目にするときは診察時にちらっと目に入るくらいで、直接どのような内容だったかはわからなかったと思います。
現在当院ではエコーの所見用紙をご希望になられる患者様にはお渡ししております。なんとなくでどんな結果だったかは、おおよそおわかりいただけるかもしれませんが、もう少し詳しくわかりたいですよね。
当院では主に以下の3種類の所見用紙を使っております。
左から、腹部エコー、頸動脈エコー、心臓エコーの所見用紙になります。これらすべて解説すると膨大な量になってしまいますので、比較的わかりやすい腹部エコーの所見用紙について話していきます。
以下の所見用紙実際の患者様の所見用紙ではなく今回は解説用にサンプルとして書き込んでみました。仮想ではあるのですが実際よく見られる所見内容です。
所見用紙左側には各臓器のエコー上の特徴(検査初見)を記載、その右側の大きな空欄に簡単な見取り図(シェーマ)を書きます。
そして所見用紙右下には上記の所見のまとめを記載します。Impressionとも呼ばれます。実際、医師はここから見て、上記の検査所見を見て、画像を確認していくことと思います。またここで、検査条件も記載します。
では丸くで囲った①から⑤までを解説したいと思います。
①肝臓:所見あり
Sizeで右葉腫大とありますが、肝臓は左右に広がっているので右側部分がやや大きいという意味です。Internal echo(内部エコー):Moderate fatty change(中等度脂肪性変化)。つまりは肝実質内部エコーは中等度脂肪性変化を呈しているということです。その様子は深部減衰と記されています。深部減衰とは、肝細胞内に多量の脂肪が沈着されている際超音波のビームが通過すると反射・吸収・拡散しながら減衰します。なので、通過し始めは(表面側)明るく描出され深部に進むにつれ暗く描出されます。軽度の脂肪性変化なら超音波の減衰は著明ではありません。肝臓の脂肪性変化の指標としても用いられます。edge(辺縁):dull(鈍化)。先ほど述べました、肝腫大や脂肪肝の付随所見でもあります。脂肪肝のほかにも何らかの肝機能障害でもみられ肝臓が丸みを帯びてきます。S6に5mmのcyst(のう胞)。まずS6とは。肝臓は大きく8区域(Segment)に分けられます。このSegmentのsをとって6番目の区域と示します。いわば、"肝臓6丁目"と思っていいでしょう。cyst(のう胞)は小さく少数認められる場合正常な人でもみられ、ほとんど臨床的意義がないとされます。肝臓以外でも膵臓、腎臓、腹部以外でも乳腺や甲状腺でも認められます。肝臓最後の項目にSOLの有無がありますがSOLとは?占拠性病変または腫瘤性病変のことをいいます。腫瘤と聞くと悪いイメージが立ちますが良性病変も含まれます。この場合SOL⊕はこののう胞を指します。
②胆のう:所見あり、膵臓:一部初見判定不能
この方は検査2時間前に食事をとってしまいました。腹部エコーにおいて絶食時の検査が原則ではありますが、予定外に検査が追加されたり誤って食事をとってしまったり、食後のエコーを行うことが多々あります。食後により描出部位は限定されます。さてシェーマのように胆のう(GB)は委縮(Atrophy)してます。委縮はしていますが内腔に音響陰影(AS:acoustic shadow)伴う約10mmの結石(stone)が認められました。通常、空腹時の胆のうは委縮はしていなく胆のう壁も3mm以下とされています。しかし食後1時間以降胆のうは収縮し壁は全体に肥厚し約5mm位までになりますので5mm以下のポリープや胆のう腺筋(ADM:Adenomyomatosis)はわからなくなります。 食後以外で胆のうが委縮し壁肥厚を認める代表的な疾患は慢性胆のう炎です。ただしこの検査所見では内腔smooth(平滑)と記載されてますので、不正な壁肥厚伴う慢性胆のう炎は考えにくいです。いずれにしても、胆石が認められた際胆のう壁を観察することが極めて重要なので、やや委縮気味であるときは必ず食事の有無を聞いております。食後でどうしても判断つかないときは次回の検査で観察するしかありません。CBD(総胆管:Common Bile Duct):dilatation(拡張)⊖。総胆管拡張なし。ここも食事の影響を受けやすい場所ですが、描出できたようです。総胆管は胆のうから胆のう管を経て肝外に向かい十二指腸内に至ります。食事により十二指腸付近からガスを発生しますので見えなくなってしまいます。多数の胆石を認め総胆管拡張像を伴っている場合総胆管内に結石を認められることもあります。また、悪い話でありますが、早期胆管癌の場合腫瘤が認められなくても総胆管拡張(この場合内腔不整像を伴う)から発見されることもあるので、下部胆管までしっかり観察しなくてはならないところです。因みに胆のう摘出した患者様で総胆管拡張像を認められますが、生理的拡張なので拡張自体は問題はないとされてます。膵臓は概ね食事の影響大きく受けず2/3くらいは描出できてるようです。しかし、Tail(膵尾部)はpoor echo(描出不可)と記載してます。おそらく胃や腸管ガスで見えなくなっているのでしょう。 腹部エコーで食事により見づらくなるのは胃に残渣がたまり見えなくなると思われがちですが、実は食物の量でなく発生する消化管ガスの影響です。昔レントゲン技師さんに聞いた話ですが骨盤腔内MRの場合食事をとるとガスよりも腸管が動き膀胱内を見ようにも絵にならなくなるそうです。
脾臓:所見なし
特に問題ないようです。一つ聞きなれないフレーズSplenomegaly。これは脾腫。脾腫は主に肝硬変や白血病で見られます。特に肝疾患で肝硬変が認められた時、脾腫の有無も見ることは当然ですが脾門部の血管拡張も観察すべきところです。体格の大きい男性で計測すると大きく計測されますが脾臓の形状から容易に脾腫でないことがわかります。
③腎臓:所見あり
適当なシェーマで申し訳ありません。左腎臓の辺縁を書いたつもりです。上記肝臓や膵臓、脾臓でたびたび見られるSEの項目があります。SEって?Strong Echo、主に石灰化を指します。特にAS(音響陰影)を伴っている場合結石が疑われます。シェーマで示す通り腹部エコーでは腎臓単体を描出する際上極(上側の腎臓)は左、下極(下部の腎臓)は右として描出します。この場合左腎上極に3mm以下の石灰化が認められるということです。非常に小さいためAS(音響陰影)が見えないのかもしれませんが、微細な石灰化と考えられます。なお、腎盂内に認められた場合、微小血管壁の反射との鑑別が困難な場合があります。Hydronephrosis:水腎症。正確には腎盂だけでなく尿管も拡張している場合を指します。正常な尿管はエコーでは見えません。見えたときは拡張です。腎盂拡張像や水腎症が認められるとき、結石や腫瘤の有無を観察しなければなりません。特に尿管拡張伴う水腎症では、観察範囲を腎臓から出て尿管内も可能なところまで追っていくと尿管結石が見つかることも多いです。また右下腹部痛精査時に虫垂炎や右卵巣嚢腫も視野にトレースしてたら偶然尿管結石が見つかったこともありました。
④膀胱・前立腺:所見判定不可(描出不可)
この患者様は検査前にトイレに行ってしまったようです。仕方ありません。排尿すると膀胱は食後の胆のうのように委縮してしまいます。さらに周囲の腸管も寄ってくるのでガス像となり膀胱のほか前立腺も見えなくなってしまいます。ただし、男性患者で著しい前立腺肥大が認められるときは前立腺を、女性患者なら大きな卵巣嚢腫や子宮筋腫が認められるときは卵巣や子宮を観察できることがあります。当院では腹部エコーにおいて下腹部領域の膀胱・前立腺・子宮・卵巣までスクリーニング検査します。検査前の検尿は控えてますが、カルテ上例えば前立腺チェックとの指示がない限り改めて尿溜めはしておりません。また、排尿後でも飲水30分以降で膀胱を観察できることもあります。一般に下腹部領域のエコー検査では検査前2時間は排尿しないよう説明してる施設が多いと思います。余談ですが、昔私が泌尿器の病院で勤めていたころ、泌尿器にかかられている患者様に「2時間の尿溜めは苦痛以外何物でもない、2時間我慢できるくらいなら泌尿器に来ない!」と話されてたのを思い出しました。検査のためでありますが、そこは臨機応変でと思います。当院で行ったことはありませんが敢えて排尿直後に検査する場合があります。残尿量の測定です。排尿後の膀胱を計測し簡易的な体積を算出します。決まった正常値はないのですが上限を50mlまたは100mlとされています。膀胱のある位置でもし描出できなければ当然初所見はありません。
⑤以上ここまで長くなりましたがImpressionです。以上の検査所見からの要約を箇条書きに記載します。前回の初見と変動があった場合今回の様に脂肪肝はやや増強か、と、経過観察中のもので変動なければ著変なしと記載します。検査所見ではアルファベットの略語で記載されますが、ここではわかりやすく日本語で正式名称で記載すべきです。今回書かれてませんが、まれにS/Oと記載されていることがあります。S/O:suspect of。疑い、という意味です。因みにR/O。R/O:Rule out。除外、鑑別という意味です。ここでも本当は日本語で~疑い、~との鑑別を、記すべきだと思いますが。緊急を要す初見があったりする場合、CT/MR等精査希望と記します。施設によりますが技師によって書かれた所見用紙と画像をもとに読影に回すこともあります。内容に問題なければ技師のサインのほか、読影医のサインが記されます。
最後に
途中ちょっと難しい内容になってしまいましたが、簡潔に結果を見るには最後の要約を見てください。そしてその結果に至ったプロセスルールは検査所見に記載してあります。最初は略語ばかりで難解に思えるかもしれませんが毎回所見用紙を見ていくうちに何となくわかってくると思います。